八幡「想いを返す日」

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

見たいSSカテゴリーは??

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1: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:26:57.24 ID:17bnsS7c0
・俺ガイルSS
・原作11巻の続きみたいな感じですが、なるべくほのぼの路線にします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439818017


2: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:29:26.27 ID:17bnsS7c0
何かをされたら何かを返す、というのはきっと万国共通の文化だ。こと日本においても当然それは変わらない。
挨拶をすれば挨拶を返すし、手紙やメールが届けば返事をする。当たり前のことなのかもしれない。けれど、俺にとっては当たり前じゃなかった。
ふと気が付いた時には、返すという機会自体が無くなってしまっていたからだ。
そう、結局のところ経験不足。これに尽きる。だから現状の俺の悩みは、過去のツケを払っているようなものなのだ。
腕を組み、カレンダーとにらめっこの状態から、背後に向けて声を上げる。

「なあ小町」

「なに?」

「ホワイトデーってなに返せばいいんだ?」

3: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:32:00.69 ID:17bnsS7c0
ソファに脚を投げ出して座る小町に振り向きざまに聞く。読みかけの雑誌から面倒そうに顔を上げると、こちらから見えたのはうげーという嫌そうな顔だった。

「お兄ちゃん……そんな初めてチョコ貰った男子中学生みたいなこと聞かないでよ」

「うっせ。わからんもんはわからん。だから聞いてる」

実際、小町と母親以外の異性からバレンタインに何かを貰ったのは初めてなのだ。だから、世間が騒ぎ立てるホワイトデーのお返しがどうとかこうとか、今まで考えたこともなかった。

「はぁ、誰に貰ったんだっけ? 結衣さんと雪乃さん?」

小町が知ってる中でぱっと出てくるのはその2人だけなんだろう。より正確に言えば、一色からも貰ってるし(超義理。間違いなく義理)、川なんとかさんとその妹の川崎京華からも共同制作という形で貰っている。折本は……まぁいいや。試食をいちいち貰ったとカウントするのもおかしい話だから、こんなところだろうか。
小町に追求されると非常に面倒なので、ここは適当に答えることにした。

「そんな感じだな」

「なーんか歯切れ悪いねぇ」

「まあ、そうだなぁ……」

実際のところ、俺は判断に困っていた。
由比ヶ浜からはクッキーを受け取ったが、雪ノ下のあれはどうなんだ?部室で確かに手作りクッキーを貰ったは貰ったが、由比ヶ浜のついでみたいな感じだったしなぁ……。
勝手に貰ったと勘違いしてお返しした揚句に「あなたから施しを受ける理由なんてないのだけれど」とか言われるところまで想像できちゃう。
やだ、ゆきのんの脳内再生率高すぎ……?。

4: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:34:05.23 ID:17bnsS7c0
「どしたの、お兄ちゃん?」

脳内で雪ノ下にばっさり切り捨てられる想像をしていた俺に向け、小町は気遣わしげに小首を傾げる。

「いや、何でもないぞ。あとはそうだ、小町にもな」

「おっ。小町を忘れないなんて、そこはポイント高いよ」

「俺が忘れるわけないだろ? ちなみにお前ならなに欲しいんだ?」

雪ノ下のことはとりあえず後で考えよう。
小町は悩む。んー、と腕を組んでひとしきり唸ったのちに出した答えは、ある意味想定内のもので。期待を裏切らないってこういう事なんだろう。

「小町は、お兄ちゃんの笑顔が見れればそれでいいよ?」

「お前……それは八幡的にもポイント高いな。金かからなくていいし」

「そういうこと、面と向かって言っちゃうのはポイント低いなー」

「すまんすまん。だがこれが俺だ」

近づいて、くしゃりと1回だけ頭をなでると気持ちよさそうに目を細める。それが何だか楽しくて、2回、3回と続けて細くて柔らかな髪を撫でた。

5: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:37:32.58 ID:17bnsS7c0
「まあ、月並みな回答だけどお返しするものは何でもいいと思うよ?」

「そういうけどな」

「お返しをするって、相手を想うその気持ちが大事だからね。まっ、ちゃんとお返ししようって思えてるんなら大丈夫だよ」

優し気にそう言って、すくっと立ち上がる。雑誌を置いたままリビングを出ていく小町の背へ向けて声を掛けた。

「これ、このままでいいのか?」

「あーうん、そこ置いといて。あとお兄ちゃん」

「なんだ?」

6: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:39:37.62 ID:17bnsS7c0
「期待してるよ」

にこやかな笑顔でそんなことを言い残して、小町はするりと体をドアの隙間に滑り込ませ去っていった。リビングと廊下を隔てる、今まさに閉められたばかりの扉をただ見つめる。

「なにを期待してるんだか」

独り言と溜息がほぼ同時に漏れた。正体不明の期待は、ただ重い。
ちらと、ソファに置いてけぼりをくらった小町の読んでいた雑誌が目に入る。
煌びやかな目を引く表紙には、今月号の謳い文句なのだろう。ひときわ大きな文字が配列されていた。それを見て、再びの溜息。小町に倣って、俺もリビングを出ることにした。

まるで、そこから目を背けるように。

×      ×      ×

7: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:41:37.92 ID:17bnsS7c0

季節は3月を迎え、単純に寒さが和らぐかと思えばそんなことはなく。
依然として朝晩の冷え込みは強く、日中はそれが幾分和らぐ。そんな気候がここ数日は続いていた。

太陽が高く登る昼休み前後のこの時間であっても、寒いものは寒い。
外気に剥き出しの冷えた手でマッ缶を握りしめると、僅かにへこむ感触があった。そういえば最近スチール缶じゃなくなったんだよな。こうやって以前の形が無くなってしまうのは、何だか寂しい気分だ。

「八幡? どうしたの、急にぼーっとして」

「ああ、すまん戸塚。なに、急に寂しさが湧いてきてな」

くりっとした瞳がこちらを覗きこんでいるのに、声を掛けられるまで気が付かなかった。
戸塚はふーんと感心したような声を漏らす。

8: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:44:30.12 ID:17bnsS7c0
「なに、どうした?」

「なんでもないんだけどね。卒業式も終わっちゃったから、それを寂しがってるのかなって」

「……俺がそういうタイプに見えるか?」

「うーん。見えない、かな?」

「だろ?」

今年度の総武高校の卒業式はつつがなく終了した。
それに対して寂しさや、卒業する先輩に別れを惜しむ気持ちは、正直あまりない。それなりに関わりのあった先輩らしい先輩なんて城廻先輩くらいなものだから、仕方ないところではある。
交わりがあって、人となりを知っているから寂寥感が湧く。知らない先輩にそれが湧くほど感情豊かでも無い。

9: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:49:45.78 ID:17bnsS7c0
自信満々とも言える俺の物言いに、戸塚は目を細めてくすりと笑った。無駄に艶っぽくて勘違いしたくなっちゃうから是非やめて欲しい。
でも勘違いしたい。いや違うな。させて下さいお願いします。(錯乱)
そのままふたり並んで座り、鉄製のフェンス越しに目の前で繰り広げられるテニス部員達のラリーの様子を眺める。

「それはそれとして、聞きたいことがある。というか教えてくれ」

「八幡がそういうのも珍しいね。なに?」

「ホワイトデーのことなんだが、なんて言うか、なに返せばいいのか悩んでてな」

「あーホワイトデー」

戸塚はぽんと手の平を合わせる。俺の言葉を受けると一瞬意外そうな表情を見せたが、すぐに思案顔になった。暫く考え込むと、やがて考えが纏まったようでゆっくりとこちらに向き直る。

「ぼくもあんまりそういう経験ないから、良いアドバイス出来ないかもだけど」

「……ちなみに参考までに聞きたいんだが」

「なに?」

「今年いくつ貰ったんだ?」

無言で目をぱちくり。やや視線を外して上を見上げると、指を折って数を数え始めた。
ひーふーみー…………えっ、多くない?うそ?まだ止まらないの?えっ?
両手の指を折りきるのか、というところでようやく動きが止まった。折った指をぱっと広げて俺に見せつける。

10: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:53:53.76 ID:17bnsS7c0
「これくらい?」

「戸塚って……モテるんだな」

チョコを貰うというよりむしろ贈る方が似合う、といったらさすがに失礼か。でもそっちの方を自然に想像しちゃうんだよな。だが男だ。男なんだ。
ぽかんと開けられた口から漏れた俺の感想に、恥ずかしそうに手を振って応える。

「そ、そんなんじゃないよ。女子テニス部の子とかからの義理チョコが大半だから」

「ほーん、なるほど……」

部活の同期とか後輩からなんだろう。それでも、普段から慕われてないとバレンタインにチョコを贈ろうなんて考え付かない。例え、それが義理チョコであってもだ。
ちゃんとやれてるんだなぁ、と。そんなしみじみとした感想を覚えた。

「あ、あと」

「ん?」

「知らない女の子からもね、貰っちゃった」

「おお……。それはすごいな」

「あはは、なんか恥ずかしいや」

やっぱモテるじゃないですかーやだー。これでモテないとかいったら俺は人外ですよ!人外!
う、羨ましいとかじゃないよ? 男子たるもの、一度はそんなシチュエーションを経験してみたいなぁとかそんな感じだ。でも仮に俺が渡されてもなぁ……。下剤とか入ってないよな?とか勘繰って絶対口にしない気がする。まぁそれはいいとして。

11: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:56:11.75 ID:17bnsS7c0
「じゃあ、なに返すとかもう決めたか?」

「うーん、テニス部の子はお返しするの簡単なんだけど、知らない女の子にはもしかして返さないかもしれない」

「返さないのか?」

「うん。お返しはいらない、って言ってくれてさ。それに、その子がどんな子なのかわからないから。なに返したらいいか全然わかんないんだよね」

そう言って、戸塚は困ったように笑った。
実際困るんだろう。知ってる相手から貰うだけでもお返しに困るくらいなのだ。だが、物は言いよう。考え方を変えることで見えることもある。

「知らない仲だったら、何返されても文句言えないだろ。相手だってそれは承知済みのはずだし。当たり障りないもんでいいんじゃねーの?」

その辺で売ってる菓子とか、キーホルダーとか。適当なものを頭に思い浮かべていると、おおーと感心したような声が聞こえた。

「八幡のそういう考え方、中々ぼくは出来ないなぁ。やっぱり八幡はすごいね!」

「……おう」

その声に邪気の類は一切なかった。だから、本気で感心してるんだろう。……戸塚よ、お前だけは変わらず純粋でいてくれ。

12: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:57:54.87 ID:17bnsS7c0
「八幡はさ、知ってる女の子から貰ったんでしょ?」

「ん、ああ」

「そっか。そうなんだ」

誰から?とは戸塚は聞かなかった。正直ありがたい。贈り主の名を口に出して言うのは、何だかひどく恥かしい思いだ。照れ臭いというか何というか、うまく言い表せないがそんな感じだ。

「じゃあ、大丈夫だよ」

何が?と思って戸塚を見やる。疑問を孕んだ目線に戸塚もすぐに気が付いたようで、ラリーを見つめたまま言葉を続けた。

「知ってる人へのお返しなら大丈夫だよってこと。その人の好みとか、好きなものとかわかるでしょ?」

13: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 22:59:43.58 ID:17bnsS7c0
でしょ?そこまで言って、くりっとこちらを覗き込む。俺はといえば、頬を掻いてへどもどした返事をすることしか出来なかった。

「まあ、そうだな。ある程度はわかるが」

「うん。それで八幡が考えて、その人に返してあげる。それだけでも喜ぶと思うんだけどな」

「……そういうもんか」

「そういうもんだよ。だって、相手が自分のことを考えて贈り物してくれるんだよ? こんなに嬉しいことはないって」

戸塚も、小町と似たようなことを言う。要は、相手のことを考え、想いを込めることが贈り物には重要だと。贈る相手を慮ることが重要なんだと。
ではあいつらは、俺にどんな想いを込めていたんだろうか。徐々に思考の沼に嵌まる。正にその時だった。柔らかな声が、フェードアウトしかけた思考を現実に引き戻す。

14: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 23:01:41.52 ID:17bnsS7c0
「八幡?」

「……すまん考え事だ。とにかく考えてみるわ」

「うん。 また相談してね?」

「おう。助かる」

そうして、顔を見合わせて軽く笑い合った。
想いを込めた贈り物。それに対する答えはわからないままだ。
それでも、ぼんやりと。まるで何かの輪郭を描くように、少しづつ形作っていくものなんだと思う。
「わからない」で終わらせては駄目だ、とは誰の弁だったか。強烈に印象に残ってるくせに濁すのは、未だにあの時のことが恥ずかしいからだ。

わからない。
ならば問おう。自分はもちろん、今回のように他人に聞いてみてもいいかもしれない。
そんな風にして少しづつ、少しづつ。残された時間の中で、俺なりの答えを出せばいい。

午後の授業の到来を告げるチャイムが聞こえる。その音が校舎に響き渡る中を戸塚と共に教室に急ぎながら、そんなことを考えていた。

×      ×      ×

15: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 23:06:51.26 ID:17bnsS7c0
「平塚先生」

「おお、比企谷か。どうかしたかね?」

午後1番の授業は国語だった。チャイムと同時に授業を終え、教室を出ていく平塚先生を追って廊下に繰り出し、声を掛けた。

「ちょっとご相談したいことがありまして」

「……君だけか?」

言わんとしていることはわかる。奉仕部としてか、それとも俺単独の話か。

「俺だけです」

「そうか。ここで大丈夫かね?」

休み時間に入ったばかりの廊下は幾分騒がしい。先生は周りを見渡し、それに続けて視線をこちらに向けた。

「歩きながらでいいですか?」

「構わないが。では職員室に向かおうか」

そう言って踵を返し、職員室へ続く廊下を歩き出す。俺も後に続いて歩き出し、隣に並んだ。
廊下を闊歩するだけで、先生には色々な生徒から声が掛かる。そしてそれににこやかに、時に快活に対応していく。
普段のアレを知ってるから忘れているが、人気教師なのだこの人は。基本的には。

17: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 23:08:20.04 ID:17bnsS7c0
生徒の多い教室前の廊下を抜けて、階段の踊り場までやってきた。そこを過ぎようかというところで、先生はこちらにちらっと視線を投げかける。

「で、どうした?」

「単刀直入に聞きます。ほ、ホワイトデーのお返しとかって、女性としては何が嬉しいもんですか?」

「……ほほう」

「何すかその顔は?」

「いや、なに、君がそういうことを聞くようになるとはね。ふふっ」

「笑わないで下さいよ。こっちだって恥ずかしいんですから……」

すまんすまんと、謝意のない言葉を呟きながら、くしゃっと頭を撫でてきた。それをされるがままに受け止めると。またふふっと笑い声が漏れるのが聞こえた。それがなんだか悔しくて、軽くその手を払う。

18: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 23:10:21.51 ID:17bnsS7c0
「で、どうなんすか?」

「あーそうだな。好きな人からお返しされたら何でも嬉しいんじゃないか?」

「…………」

「何かね、その顔は?」

「いや、先生に似つかわしくない女性らしい意見だったもので」

「比企谷?」

「……それ、続けてると指の関節太くなるらしいんでやめた方がいいですよ」

小気味の良いポキッ、ポキッというクラッキングを続ける先生にそう注意を促す。善意だよ?これは。目が笑ってないのが怖いとか、別にそういうのじゃない。

「ほう、指輪のサイズが上がることを心配してくれてるのか? 偉くなったな君は」

逆効果だった。おかしいな、赤い涙が見えるぞ。
俺を見咎めるような視線をようやっと収めると、少し人心地がついた。先生は、咳払いをひとつ。まるでこの話はここまで、というように。

「何か、すんません」

「いや、こちらこそムキになった」

19: ◆.XibMUKIvI 2015/08/17(月) 23:14:07.45 ID:17bnsS7c0
きゅっとスキール音が廊下に響く。歩き続けた足を止めた場所は、もう職員室前だった。周りに人はいない。授業間の休み時間なんて短いもので、あと半分ほどしか残されていなかった。

「先ほどの質問だが、私にだって具体的な答えは出せないよ」

申し訳ないけどね、と言い添える。

「……人によって嬉しいと思うものは違うからですか?」

「それもある。好みなんて人それぞれだ。女性といっても私みたいなのもいるしな」

言って、自虐的にからからと笑った。かと思えば寂しそうに溜息を吐く。女心と秋の空。そんな言葉がお似合いだ。
見ていて飽きないけど、若干面倒くさい。

「ま、それ以上に言えることは」

「言えることは?」

先生はニッと笑う。それに今まで何度も助けられてきた。たまに見せる、数少ない尊敬できる大人の顔だった。

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