ドラえもん「野比玉子という『害悪』」

ドラえもん『二文字』シリーズ

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1: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:20:30 ID:UPm
僕はこの時代にのび太くんを助けに来た。
だが正直言って、のび太くんが真っ直ぐに成長するのは非常に難しいと感じた。
その最大の理由は。

「早く宿題をやりなさい!!」

……野比玉子。この女の存在だ。


4: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:25:43 ID:UPm
「今からやるよ……」
「早く机に向かいなさい!! 終わったら買い物に行くのよ! 早くしなさい!!」

のび太くんは怯えきった目で逃げるように野比玉子から離れ、自分の部屋に向かう。
僕がこの家に来てから、のび太くんがあの女に優しい言葉をかけられているのを見たことがない。
そう、あの女は恐ろしいほどの減点方式を取る。

6: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:27:05 ID:UPm
「いつまで宿題に時間かけてるの! 早くおつかいに行きなさい!」
「でも、まだ終わっていないよ……?」
「遅い! 五分以内に終わらせなさい! さもないと夕飯抜き!」

野比玉子は今日ものび太くんに罵声を浴びせる。
まるでそれが自分の使命であるかのように。

13: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)14:12:40 ID:UPm
>>7
いつも見てくれてありがとう
8: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:30:36 ID:UPm
「のび太! 時間よ! おつかいに行きなさい!」
「む、無理だよ! 終わらないよ!」
「口答えするんじゃないの!」

野比玉子は手にした鉄製の定規でのび太くんの手を叩いた。

「ひうっ! い、痛いよ……」
「これくらい我慢しなさい! 男でしょ!」

野比玉子はのび太くんの話を全く聞き入れない。
自分の息子だというのに。

9: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:35:29 ID:UPm
のび太くんは仕方なく、宿題が終わらないままおつかいに行く。

「いい? 三十分以内に帰ってこないと明日の朝御飯も抜きよ!」
「そ、そんな!」
「文句を言うんじゃない!」
「あうっ!」

のび太くんは自分の母親に六発連続ビンタされた後、逃げるようにおつかいに出掛けた。

10: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:39:02 ID:UPm
僕は気になって、「かくれマント」で姿を消してのび太くんを尾行する。
僕がのび太くんの手助けをするのは、あの女によって制限されている。
僕の道具があればあの女の支配から逃れることは容易いはずではある。
だがあの女は、時に予想外の行動に出ることがある。
11: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)12:48:38 ID:UPm
その予想外の行動の代表格が、「息子の所持品を勝手に捨てる」行為だ。
これだけ聞くと、世の母親としては自然な行動かもしれない。
しかしあの女はのび太くんが大切にしていた絵本や僕の秘密道具、果ては「もしもボックス」という巨大な道具まで、「必要のないゴミ」に見えるらしい。
その身勝手な行動が僕たちの命を懸けた大冒険に繋がるとも知らずに。
あの女にとって重要なのは、「息子が自分の言うことを聞くかどうか」。
ただそれだけである。
14: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)15:09:12 ID:UPm
さて、僕がのび太くんを隠れてまで尾行する理由だが……彼にとっての障害は野比玉子だけではないからだ。

「よう、のび太ぁ」
「ジャ、ジャイアン……スネ夫……」
「なんだのび太? 友達が挨拶しているのにその態度は?」
「あ、いや」

ジャイアンとスネ夫。のび太くんの天敵であるいじめっこたち。
彼らはことあるごとにのび太くんに暴力を振るう。時には素手ではなくバットで殴りかかってくる。
しかし、バットのくだりはいきすぎた行為ではあるが、この二人の行動自体はかわいいものだ。

「おい、その手に持っているのはなんだよ?」

ジャイアンはのび太くんが持つ手提げに視線を向ける。

15: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)18:18:47 ID:UPm
「あ、あの、僕おつかいの途中だからこれで……」
「ほう、そうか……」

ジャイアンは邪悪な笑みを浮かべ、のび太くんに近づいてくる。

「おらっ!」
「ああっ!」

そして手提げをのび太くんの手から奪い去った。

「か、返して!」
「へへー、逃げるぞスネ夫!」
「ジャイアン~、パスパス!」

ジャイアンとスネ夫は手提げを交互に受け渡して、のび太くんから離れる。

「やめてよ! 返してよ!」

16: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)18:29:17 ID:UPm
のび太くんは泣き叫ぶ。

「おいおいのび太ぁ、泣いてんのかよ?」
「情けないったらありゃしないねジャイアン!」
「返して、返してよ!」

ジャイアンたちにとってはこれはただのいたずらなのだろう。
しかしのび太くんにとっては、まさに地獄に行くかどうかの瀬戸際なのだ。

17: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)18:39:55 ID:UPm
野比玉子が指定した制限時間は三十分。
のび太くんはなんとしてもその時間内におつかいを済ませ、家に帰らなければならない。
以前、のび太くんが同じような状況に陥り、家に帰るのが遅くなったことがあった。
その時、野比玉子がとった行動は、

真冬の庭で、全裸ののび太くんに氷水のプールに浸からせることを強制するというものだった。

18: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)19:13:12 ID:BHO
「ああああ! 痛い! 痛い!」

当然のことながら、のび太くんは叫んだ。
冷たいという感覚を通り越して、痛いという感覚に襲われてのた打ち回った。
だが野比玉子はこう言った。

「叫ぶんじゃない! 近所迷惑でしょ!」

この女にとって重要なのは、息子の安否ではなく自分の体面だ。
のび太くんに勉強を強制するだけするのも、優秀な息子を持って優越感に浸りたいという単なる欲望のためだ。

20: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)19:34:57 ID:BHO
その証拠に、僕はこの女がのび太くんに勉強を教えているところを見たことが無い。
学生時代、頭が良かったらしいにも関わらずだ。

「助けて、ドラえもん助けて!」
「何かあったらすぐにドラちゃんに頼って! そんな子に育てた覚えはありません!」

僕はのび太くんの助けを求める声を、涙を流して歯を食いしばって聞こえていないふりをした。
僕ならのび太くんを助けることは可能だろう。だがそれは出来なかった。

25: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)19:46:55 ID:BHO
僕がこの家に来て間もなくのことだった。
タイムパトロールから緊急の通信が届いたのだ。

「はいはい、ぼくドラえもんです」
「緊急事態だ。その時代の野比玉子という女性に関して衝撃的な事実が判明した」
「え?」
「いいか、なんとしても野比玉子に危害が及ばないようにするんだ。そうしないと君の主人、セワシは消滅する」
「そ、そんな!? どうしてですか!?」
「詳しい原因はわからないが、野比玉子が事故や病気で死亡し、本来の寿命を迎えないと22世紀に大きな影響が及ぶことがわかった。そうなるとセワシの消滅だけでは済まない」
「わかりました……とにかく野比玉子、のび太くんのママを守ればいいんですね?」
「そうだ、追ってまた連絡をする」

通信が終わり、僕が一息つくのと同時だった。

野比玉子が部屋に入ってきたのは。

26: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)20:00:03 ID:BHO
「あ、ママ……」
「なんですかドラちゃん! こんなガラクタ拾ってきて!」
「え!?」

突如としてそう叫んだ野比玉子はタイムパトロールからの通信を受けるための道具、「タイムテレビ」を引っ掴んだ。
そして手にしたトンカチで画面を割ってしまったのだ。

「ちょ、ちょっと、ママ!」
「言い訳するんじゃありません! こんなガラクタ必要ないでしょう!」

……この時の僕は、この女が何を言っているのかわからなかった。
なぜ僕の目の前にある普通のテレビ同然の機会をガラクタだと認識してしまうのか。

「ああもう! 机の中は片づけているんでしょうねのび太は!」

そう言って野比玉子はのび太くんの机の中を覗き込んだ。

27: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)20:15:09 ID:BHO
「なによこれは!?」

そして突如として思わず無くした耳を押さえそうになるように金きり声を上げ、引き出しの中からタイムマシンを引きずり出す。

「のび太ったら! こんなガラクタを机の中にしまいこんで! そんなだから成績が上がらないのよ!」
「ママ、それガラクタじゃな……」
「こんなものは、こうです!」

そして一心不乱にトンカチをタイムマシンに振り下ろした。
みるみるうちにタイムマシンが原型を留めなくなっていく。

「ママやめて! タイムマシンが壊れちゃう!」
「こんなものは勉強には必要ありません! 捨ててらっしゃい!」

そして完全に破壊されたタイムマシンの残骸を僕の頭にたたきつけた。

「ふぎゃっ!」
「十分以内に捨てるのよ! いいわね!」

そしてドンドンと足音を立てながら階段を下りて行った。

28: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)20:33:41 ID:BHO
僕は戦慄した。
この時代の人間はこんなにも話が通じないのか。こんなにも人の話を聞かないのか。
だがその認識が間違いだということはすぐにわかった。
あの女の夫である野比のび助は小心者ではあるものの話は聞いてくれる。
いじめっこの小学生であるジャイアンとスネ夫でさえも意思疎通は出来る。
あの女だけなのだ。こんなにも僕の理解の外にいるのは。

「のび太! 勉強しなさい!」
「ママ、ここがわから……いたいっ!」
「それくらい自分で考えなさい! そんなことも出来ないの!?」

野比玉子は息子を叱りつければ自分の教育は終わりだと思っている。
それで息子が失敗すればすべて息子の責任だと思っている。
自分に原因があるとは全く考えない。
自分が認識しないものはこの世には存在しないも同義だと考えている。
だから意思疎通ができない。

29: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)20:40:32 ID:BHO
だからのび太くんは野比玉子を恐れている。自分の母親を恐れている。
だからのび太くんは何としてもかいものの手提げをジャイアンから取り返さなければならない。
それも今すぐに。

「返して! 返して! 返して! 返して!」
「……」
「……」

のび太くんの鬼気迫る表情に異変を察したジャイアンたちは、顔を見合わせる。

「お、おう、気が済んだし返してやるよ」

ジャイアンから差し出された手提げを奪うように取り戻したのび太くんは、一目散に商店街の方へ走り出した。

「なんだあいつ?」

ジャイアンたちは拍子抜けしたかのように逆方向に歩いて行った。

31: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)20:50:53 ID:BHO
お世辞抜きに、のび太くんは全速力で走っていた。
彼の本来の足の速さを考えればかなりの健闘と言っていいだろう。
それくらいのスピードで彼は買い物を済ませたのだ。
だがそれでも、それでも野比玉子に「人の話を聞く」という言葉はない・

「遅い遅い遅い! 12秒も過ぎてるじゃない! 何をしていたの!?」
「あ、あの、ジャイアンが……」

のび太くんが言い終わる前に、野比玉子は息子の頭をおたまで殴っていた。

「ひぐうっ!!」
「言い訳するんじゃないの! 武さんがいたのならあんたのか買い物を手伝ったはずよ!」
「いやだからジャイアンが手提げを奪って……」
「ふざけるな!」
「あぐっ!!」
「あんた言い訳だけじゃなくてウソもついたわね!? そんなんじゃ殺されたって文句言えないわよ!」

そう言った後に野比玉子は近くにあった電話でのび太くんの頭を殴った。

「うぎゃっ!!」

たまらずのび太くんが倒れる。

「お、おいやりすぎじゃないか?」

その時、野比のび助が珍しく野比玉子を制止しようとする。さすがにまずいと思ったらしい。

「何言っているの! この子は言い訳した上にウソをついたのよ! 死んだってしょうがないじゃない!」
「何を言って……」
「私がそうだと言ったらそうなの!! 私がこの子を殺したって警察は許してくれるはずよ! いいや、むしろよく躾けたと表彰されてもおかしくないわ!」

野比玉子の血走った眼を見て何も言えなくなった野比のび助は家の奥に引っ込んでいった。

36: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)21:12:25 ID:BHO
のび太くんはしくしくと泣いている。
そして僕はそれを歯を食いしばって、頭から湯気が出て、目からオイルが流れ出ている状態で見ることしかできない。

「いつまで泣いているの!! 早く勉強しなさい!」

野比玉子は息子の苦しみに気づかない。気づくはずがない。

この女の頭の中にあるのは、自分は努力せずに優越感に浸りたいという薄汚い欲望だけなのだから。

37: ◆BEcuACNawuaE 2015/08/03(月)21:18:58 ID:BHO

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