魔王「この空とともに旅をしよう」

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1: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/12(日) 23:59:20.05 ID:almLC53a0
兵士A「待て」

兵士A「そこの剣を持った男だ、待たぬか」

男「……」

兵士A「見慣れない身なりだな。お前、王都の民ではないな?」

兵士A「ここは王都の市門。この先は、王侯貴族と王都の民以外、通行証なしに通ることはまかりならん」

男「通行証……? あっ」

兵士B「通行証がないんですかぁ?」

男「通行証はな……ありません」

兵士A「なら残念だが、お引き取り願おう」

男「……が、こういうものなら」ガサゴソ

兵士A「金貨や物で我らを釣ろうとしてもそうはいかぬぞ。我らは誇り高き王都を……」

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2: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:03:05.04 ID:Q8G1HzKN0
兵士B「げっ! これは……!」

兵士A「何だ兵士A。安易に奇声など発して武官としての心構えがなっとらんぞ」

兵士B「で、でもぉ」

兵士A「そういう所がなっとらんのだ。見せてみろ」バッ

兵士A「うげひょうっ!」

兵士B「何ですかその意味不明な奇声はぁ!」

兵士A「そんなこと言ったって、これはお前……!」

兵士B「だから驚いたんじゃないですかぁ」

兵士A「いや、これはそういう問題ではなくてだな……」

兵士A「男殿、元帥閣下の招待状をお持ちと存じ上げずに働いてしまったご無礼をお詫びします」

3: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:06:09.49 ID:Q8G1HzKN0
男「あ、いや」

兵士A「この者に元帥閣下の屋敷までご案内させますので、どうかご容赦のほどを」

男「いやいや、元帥の家の場所は知っているので、それには及びませんよ」

兵士A「しかし、魔王を討伐した三傑の一人である元帥閣下のお客様とあってはですね……」

男「それなんですが……」

兵士A「何でございましょうか、男殿」

男「こんなものも……」ガサゴソ

兵士A「拝見いたしましょう。……これは、王立魔道研究院長様の招待状!」

兵士B「王立魔道研究院の院長様も、魔王を討伐した三傑の一人じゃないですかぁ」

兵士A「おい兵士B! 急ぎ王宮に向かい、4頭立ての馬車を手配してくるのだ」

4: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:07:37.28 ID:Q8G1HzKN0
男「待ってください。一人で歩いて行きますから、お気遣いは無用です」

兵士A「そうはおっしゃるが、王都は外部の方が一人で歩くにはあまりに危険すぎますので……」

男「まさかそんな」

兵士B「街中でキョロキョロしたりすると確実に狙われますよぉ」

男「もしかして、治安が悪いのですか?」

兵士A「ええ、お恥ずかしい話ですが」

男「……そう、なんですか」

男「でも、いざとなればこの剣がありますから、ご心配には及びません」グイッ

兵士B「変わった剣ですねぇ。どこの剣なんですかぁ?」

男「これは……、そう、隣国の剣ですね」

5: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:09:15.74 ID:Q8G1HzKN0
兵士A「隣国といえば、鉱山の国ですかな。あそこの剣ならさぞかし良質な剣でしょうね」

兵士B「試しに抜いてみてくれませんかぁ?」

兵士A「ばっ……! 何をお願いしているのだ兵士B」

男「それはお断りします。この剣は、命の危機にさらされない限り、他国では抜かないと決めていますので」

兵士A「心遣いに感謝します、男殿」

兵士A「兵士B! 城門で無闇に剣を抜かせるとは、何を考えておるのだ!」

兵士B「ひいっ! すいませんですぅ!」

兵士A「だいたいお前という奴は、兵士としての心構えがだな……」

男「あの、通らせていただいてもいいですか?」

兵士A「あっ、これは失礼しました! どうぞお通り下さい。何もお構いできませんが、道中の無事をお祈りします」

6: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:19:14.82 ID:Q8G1HzKN0
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戦士「あれが魔王城……」

僧侶「ようやくここまで来ましたね」

勇者「ああ、ここからが本番だ」

魔法使い「……魔王城にしては随分小さいわね」ボソ

戦士「そうかぁ? 塀も門も物々しいし、敷地も広大そうじゃねえか」

僧侶「でも、確かに天を貫きそうな塔みたいなのはありませんね」

戦士「言われてみれば……塔どころかせいぜい2階建ての建物が点在しているだけに見えるな」

魔法使い「魔王の別荘かしらね」

僧侶「魔王とは関係のない建物だったりして」

勇者「いや、これまで魔物たちから得た情報から考えて、あれが魔王城であることに間違いはないんだ」

7: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:21:18.96 ID:Q8G1HzKN0
戦士「で、どうすんだ? 早速乗り込むか?」チャキッ

僧侶「準備は万端です!」グッ

魔法使い「……」コク

勇者「いや、今日は夜も遅い。一晩英気を養って、早朝に奇襲をかけるとしよう」

戦士「おいおい、魔物は夜だからと言って休んではくれねえぞ」

僧侶「最期に、神にお祈りを捧げるのも悪くありませんね」

勇者「最期じゃないさ。今晩は、俺たちの勝利の前夜祭だ」

僧侶「も、もちろんです! そのために戦ってきたんですから!」

戦士「ま、ここで半日程度急いでも仕方ねえか。なら景気付けに、この酒を開けちまおう」

僧侶「戦士さんはいつも二日酔いになるから駄目です!」

魔法使い「……」クス

勇者「酒は魔王を倒した後に取っておくとして、持ってきたすべての食材を使って晩餐にしようか」

8: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:24:12.02 ID:Q8G1HzKN0
戦士「なあ勇者」

勇者「何だ?」

戦士「勇者は『青空』てえのを知っているか?」

勇者「いや、話でしか聞いたことがないな」

戦士「じゃあ、やっぱり……」

勇者「ああ、空と言えば灰色の雲しか見たことがない」

僧侶「私の故郷でも、やっぱり空はいつも灰色でしたね」

戦士「魔王を倒せば『青空』が戻ると言われてるが、魔王ってのはここ数十年で急に生まれたものじゃねえだろうし……」

僧侶「確かに、一体いつからどんな理由で王国から青空が消えたのか、謎と言えば謎ですよね」

勇者「魔王に会えば謎も解けるだろうし、魔王を倒せば王国に青空が戻るはずだ。だから、あと少しだけ……」

勇者「この空とともに旅をしよう」

9: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:26:06.15 ID:Q8G1HzKN0
僧侶「私たちは、勝てるんでしょうか?」

戦士「んあ!? 『勝てるか』じゃなくて『勝つ』んだろうが。俺たちはこれまでもそうやって戦ってきたじゃねえか」

僧侶「でも、魔王はボスです。しかも一回限りの勝負で、小さなミスも許されません」

戦士「だ・か・ら、そのためにこれまで戦ってきたんだろうが」

僧侶「……」

勇者「戦士の言う通りだ。これまでの戦いの経験、失敗も成功も含めて、それらの蓄積は魔王城で安閑としていた魔王にはない。多少の力の差は、経験が必ずカバーしてくれる」

僧侶「これまでの戦い……」

勇者「思い出したくない戦いばかりだったかもしれない」

勇者「魔物が人間を追い出して我が物顔で働く農場、人間が魔物を利用して村人を恐怖に陥れる村、不信に陥った人間同士が抗争に明け暮れる都市……」

戦士「何だか対魔戦より対人戦の方が多かったみてえな回想だな」

10: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:28:45.11 ID:Q8G1HzKN0
魔法使い「後味が悪かったのは対人戦ばかりよ」ボソ

勇者「そんな戦いで俺たちは腕を磨き、勝ち方を学び、折れない心を育んだ」

勇者「魔王には恐らく魔力を含めた『腕』しかない。だからこそ、俺たちが勝てるんだ」

僧侶「……わかりました。明日は魔王が皆さんに指一本触れられないよう、本気で祝福します!!」

勇者「ああ、頼りにしてるよ、僧侶」ポンポン

僧侶「は、はい! ///」カァァ

戦士「フッ、勇者はその気にさせるのが上手いな」

勇者「その気にさせるとか、そんなんじゃないよ」

勇者「近接戦では戦士に頼りっぱなしだし、敵が多いときは魔法使いの範囲魔法がなければとっくに死んでいたし、僧侶の治癒魔法がなければ旅にすら出られなかったよ、俺は」

魔法使い「否定はしないわ」

戦士「確かにな」フッ

11: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:30:28.75 ID:Q8G1HzKN0
戦士「だがな、今みたいに心が折れた奴を立ち直らせることができるのは勇者だけだ」

戦士「そのバカでかい両手剣とか、そんなことは関係ねえ。俺たちは勇者がいたからこそ、ここまで来れたんだ」

勇者「ああ、ありがとう」

戦士「礼なら魔王を倒した後にしてくれ」ニッ

勇者「そうだな」ニコ

勇者「ならみんな、魔王を倒して王国に戻ったら何をしたい?」

戦士「俺はそうだな、行方不明になった友人探しにでも出るかな」

魔法使い「私は家族と静かに暮らしたいわ」

僧侶「私はまず、王都の修道女ちゃんのところに行きます」

12: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:31:40.21 ID:Q8G1HzKN0
勇者「友達?」

僧侶「私たち一行が王都で神の祝福を受けたときに、祝福する側として同席していたんです」

僧侶「私が王都に出てきて以来の友達なんです」

勇者「神の祝福の時なら、みんなお世話になったんだね」

戦士「礼を言わなければならねえ奴は、確かに沢山いるな」

勇者「その為にも、魔王を倒して帰ろう」

勇者「……もう時間も遅い。今日はこれくらいにして、明日に備えよう」

13: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:33:17.34 ID:Q8G1HzKN0
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勇者「みんな、この門の扉を開けたら後戻りはできない。いいな」

戦士・僧侶・魔法使い「「「ああ」」」

勇者「よし、行こう!」ギイッ

??「待つがいい!」

戦士「……!!」

勇者「何者だ!」

??「私は門番。この魔王城を裏切者の闖入から守る番人だ」

僧侶「私たちは王国に青空を取り戻すため、神の祝福を得て魔王を討伐に来たのです。裏切者などではありません!」

門番「クフフ、そうれはどうかな」

14: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:36:03.88 ID:Q8G1HzKN0
勇者「俺たちの中に魔王サイドのスパイがいるとでも言うのか? そんな陳腐かつチープな心理戦に惑わされるとでも思ってるのか!」

門番「クフフ。ではある男の話をしよう」

戦士「……」

門番「ある男は衛兵として王宮に仕えていた。その剣術は王国一とも言われ、王宮でも特に国王陛下の警護を任されることが多かった」

門番「ある男には一人の友人がいた。同じく衛兵として王宮に仕え、剣術こそある男に劣るものの、武術ではなかなかの腕前を誇る奴だった」

門番「ある時、ある男に魔王討伐隊に加わらないかという打診があった。ある男は名誉ある打診に感激しながらも、国王陛下をお守りできなくなることに不安を覚え、その友人に相談した」

門番「ある男曰く、『魔王討伐隊に参加したいが、国王陛下の警護が気がかりだ。そこで、そなたに国王陛下の警護を一任したいが、受けてくれぬか?』。友人は魔王討伐の話を初めて聞いた様子だったが、ある男の要請を快諾した」

門番「ところがその友人は、その後、ある男の事実無根の噂話を王宮内に流し、魔王討伐隊への参加を白紙撤回させたのだ」

門番「事実無根の噂話の影響はそれだけにとどまらず、ある男は王宮警備の任からも外されてしまった」

門番「その後伝え聞いた話では、その友人が魔王討伐隊に加わったという」

門番「……戦士として、な」

15: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:37:52.70 ID:Q8G1HzKN0
勇者「なっ……」

僧侶「そんな……」

戦士「…………」

戦士「変な所で会ったと思ったら、そんなことで闇堕ちしたのか、貴様は」

門番「そんなこと、だと? そなたが奪ったのは私の職ではない。私がこの手で築き上げてきた名誉や信頼をすべて奪ったのだ!」

戦士「その責任は確かに俺にある。何も弁解するつもりはねえよ」

門番「クフフ、随分素直だな、裏切者め」

戦士「……だがな、俺は貴様が魔王討伐隊になど行くべきじゃねえと思ったんだ」

門番「何だ、嫉妬にでも狂ったか?」

戦士「理由は何度も話したろうが。貴様が聞く耳を持たなかっただけだ」

門番「忘れたな」

16: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:39:46.36 ID:Q8G1HzKN0
戦士「当時、貴様には婚約者がいたじゃねえか……!」

戦士「貴様から魔王討伐隊の話を聞いた後、俺も魔王戦のことを色々調べたんだ」

戦士「ここ50年の間、ほぼ10年間隔で魔王討伐隊が送り込まれているが、正常な状態で帰還した者はゼロだった」

戦士「婚約者がいる奴を、そんなふざけた戦いに行かせられるかってんだよ!」

門番「クフフ、後からなら何とでも言えるな。そなたはこれからもそうやって醜聞を美談に変えていくのだろうな」

戦士「ふざけるな! 人の話も聞かずに闇堕ちなんかしやがって、婚約者はどうしたんだ!」

門番「クフフ、忘れたな」

戦士「のやろっ……!」チャキッ

門番「ああ、そなたはのような裏切者はこの私が通すわけにはいかん。相手になろう」スッ

17: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:41:45.43 ID:Q8G1HzKN0
勇者「ま、待て戦士。こいつの言っていることはおかしい。こんな奴と1対1で戦うことはないぞ」

僧侶「そうです! そこの門番、私達4人が相手です!」

戦士「いや勇者、これは俺とこいつの戦いだ」

勇者「違う!」

戦士「こいつを闇堕ちさせてしまったのは俺の責任なんだ。ここは俺にケリをつけさせてくれ」

僧侶「戦士さん…」ウルウル

戦士「そんな顔すんなって。すぐに追いかけるから勇者たちは先に行っててくれ」

魔法使い「……」

戦士「さっさと魔王の居場所を探しとけっつってんだろ!」

勇者「すまん戦士、魔王の玉座の前で待ってるぞ!」ダッ

戦士「ああ、また後でな」

門番「クフフ、では始めようか」

戦士「ああ……来い!」

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18: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:44:06.04 ID:Q8G1HzKN0
男(えっと、ここの武器屋の角を曲がって……)

男(おかしいな、元帥の家はこの辺りだったはずだけど……)

男(何で会堂みたいな馬鹿でかい建物に出ちゃうんだ? というか何で武器屋の並びに会堂があるんだ?)

男(雨が降ってきたし、早く見つけたいんだけど……、もう一周してみるか)

ザッザッザッ

男(…………)

ザッザッザッ

男(……)クルッ

サッ!

19: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:46:39.05 ID:Q8G1HzKN0
男(誰かにつけられてる!? そういえば、街中でキョロキョロすると危ないって言われてたっけ)

男「私に用があるなら出てきていただけませんか!」

…………

男「そこの角に隠れているのは分かっていますよ!」

???「バレておるのならやむを得ん」

男「!!」

???「我が主の屋敷に近づく不届き者め、覚悟せい!」ダッ

男「わっ、ちょっ……何、急に!」

???「去ね! 不審者め!」シュッ

男「いきなり襲い掛かってくるとか、魔物じゃないんですから……」

20: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:49:07.89 ID:Q8G1HzKN0
???「何を訳の分からぬことを! 立ち去らぬのなら、切り捨てるまで……!」ビュンッ

男「本気!? ああもう仕方ない」グイッ

???「御免!」シュンッ

ザンッ キーン

???「……なっ! 我が主に忠誠を誓った大切な剣が真っ二つに」

男「正当防衛ですよ。悪く思わないでください」

???「くっ……! かくなる上はわしを殺せ!」

男「いや、一つお尋ねしたいんですけど……」

???「ただし我が主には指一本触れさせぬぞ!」

男「あの、少し話を聞いてください!」

21: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:51:05.92 ID:Q8G1HzKN0
???「ふん、訳の分からぬ心理戦などには惑わされんぞ」

男「元帥の家を知りませんか? 確か、この辺りにあったはずなんですけど」

???「やはり命を狙っておったか」

男「命を狙う人が家の場所を訊きますか!?」

???「誰が貴様なんぞに我が主の居場所を教えるものか」

男「いや、ですから……って、主? あの、もしかしたらあなたの主からこのような招待状を頂戴したかもしれませんので」ガサゴソ

???「!!!!!」

???「こっ、これは、我が主が書かれた招待状では……」

男「やはりそうでしたか。しかし、元帥は偉くなったんですね、あなたのような騎士を抱えるなんて」

老騎士「わしとしたことが、我が主の賓客に何たることを……」ガクッ

22: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:53:37.25 ID:Q8G1HzKN0
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給仕「紅茶をどうぞ」カチャ

男「あ、どうも」

老騎士「先ほどは大変失礼なことをしてしまい、まことに面目なく……」

男「とんでもない。元帥はあなたのような勇猛な家臣に恵まれて幸せ者です」

老騎士「そう言って頂けると救われます。我が主に降りかかる厄災は全てこの手で振り払う覚悟です故」

男「ところで、元帥は……?」

老騎士「そのことですが、実は今、我が主は所用で王城に出掛けておりましてな……」

男「そうだったのですか」

老騎士「予定ではそろそろ戻ってきてもよい頃なのです。少しだけこちらでお待ち頂けますかな」

男「分かりました」

23: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:55:28.80 ID:Q8G1HzKN0
男「ところで、城門で聞いたのですが、王都は治安が悪いようですね」

老騎士「王都というか王国全体の話ですが……、客人殿はこの国の方ではないのですかな? あまり見かけぬ風体ですが」

男「ええ、隣国から来ました」

老騎士「ほう、隣国から」

男「はい、今日来たところでして」

老騎士「隣国は豊富な鉱石を生かして数々名剣を生み出す国。我々騎士にとっては、一生に一度は訪れたい聖地じゃ」

男「ははは……」

老騎士「済まぬがもう一度その立派な剣を見せては頂けぬか?」

男「えっと、この剣は、使いたくも見せびらかしたくもないんです。お守りのようなものですから」

老騎士「そうですか。いや、不躾なことを申して誠に申し訳ありませんな」

24: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 00:58:25.20 ID:Q8G1HzKN0
老騎士「さて、お尋ねの治安のことですが……」

男「はい」

老騎士「王国の治安はかなり悪いと言えましょう。原因は主に二つあるのですが、発端は一つですな」

男「なるほど」

老騎士「まずは発端の方からお話ししましょう」

老騎士「全ては魔王を倒し、魔界との往来ができなくなったことに始まります」

男「魔王が亡くなって平和になったのではないのですか?」

老騎士「戦士として魔王を打倒した我が主のことを悪く言うつもりは毛頭ありませんが、そうはなりませんでした」

男「それは一体どういうことですか?」

老騎士「戦争は、収まりました」

25: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:00:53.09 ID:Q8G1HzKN0
男「それなら」

老騎士「戦争が収まり、混乱が顔を出したのです」

男「……」

老騎士「実は、魔王戦線が続いている頃から、王国には非公認ながら少数の魔族がおりました」

男「まさかそんな……」

老騎士「いえいえ、密貿易で王国の港に出入りしていたり、戦線で捕虜となったり、様々な出自の魔族がいました」

男「そんなことが……」

老騎士「無論、王国は彼らの存在を公にしなかったので、あくまで非公認でしたがな。しかし、魔族とのコネクションや特殊技能を買われ、王国では厚遇されていたのも事実」

老騎士「ところが魔王戦線が終わると、結界が封鎖されたため、彼らは魔界に帰ることができなくなってしまいました」

男「なるほど」

26: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:02:49.52 ID:Q8G1HzKN0
老騎士「しかし魔界との停戦の条件として、王国に残った魔族は王国が責任をもって保護し、魔界に残った人間は魔界が責任をもって保護することも取り決められました」

男「その条件が守られなかったという事ですか?」

老騎士「いやいや、守られたから混乱が始まったのです」

男「???」

老騎士「魔王戦線終了後、非公認だった魔族は特殊技能者として王国に公認されました。特殊技能者の身分は、農奴やギルドの徒弟よりはるかに高いものでした」

老騎士「そして、晴れて公認の身となった彼らは、更なる飛躍を求め、王都に集結するようになりました」

老騎士「戦乱終結直後、荒廃から立ち直る途上であった王都に、魔族が自分たちより高い身分となって集結する……王都や農村の大多数の人々は、それまでにも増して魔族に怒りを覚えました」

老騎士「……これが、原因の一つ目ですな」

27: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:05:01.02 ID:Q8G1HzKN0
男「そんな馬鹿な……」

老騎士「事実ですのじゃ。怒りの遣り場を無くした民が多いからこそ、王都の治安は悪くなり、荒廃からなかなか立ち直れません」

男「……」

老騎士「さて原因の二つ目ですが、これは一つ目と関連しています」

老騎士「魔族の王都への集結によって、王都や他の街につながる街道の治安は悪化しました」

男「それは分かりましたが……」

老騎士「魔王討伐の三傑である我が主はそのことに責任を感じ、国王軍を常備軍にして王都の警備と街道の警備を行うよう国王陛下に進言しました」

老騎士「国王陛下はその進言を受け入れ、王都も街道も治安は一定程度回復しました。さらに、街道の往来が活性化し、以前にも増して物流や商売が盛んになりました」

男「幸せな未来しか描けませんが……」

28: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:06:24.21 ID:Q8G1HzKN0
老騎士「これに怒ったのが王国内の諸侯です。彼らにしてみれば、自分たちの領内の街道を国王の軍隊が進軍するなど、侵略行為以外の何物でもありませんでした」

老騎士「彼らは以前であれば教会と組んで国王を廃位に追い込んだのでしょうが、魔王戦線以降、教会は世俗に関わらなくなったため、教会をあてにできなくなりました」

老騎士「その結果、国王と諸侯、教会、有力者が集い内政の協議をする三部会の度に、諸侯は大量の軍勢を連れて王都に押し寄せ、国王に無言の圧力をかけるようになりました」

男「それじゃ、王都はまるで戦場じゃないですか」

老騎士「前回の三部会の時は、諸侯の軍勢同士が王都でいざこざを起こす始末。もはや本物の戦場です」

男「……」

29: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:07:53.24 ID:Q8G1HzKN0
バタン!

???「大変です!」

老騎士「ノックもせずに何事じゃ、若騎士! 客人の前であるぞ!」

若騎士「申し訳ありません! しかし、元帥閣下の件で至急お伝えせねばならないことがあります」

老騎士「何だ、申してみよ」

若騎士「元帥閣下が、三部会の場で山麓の辺境伯に切り付けられたと……!」

老騎士「何じゃと!!」クワッ

若騎士「その場は元帥閣下の旧友であられる王宮警備隊長殿が治めたようですが、各諸侯の軍勢も入り乱れ、王宮内は緊張状態とのことです」

老騎士「無知蒙昧な小人どもめが……! 馬鹿と鋏は使いようじゃが、馬鹿が鋏を持つと時代が逆回転するようじゃな」

若騎士「私は今から元帥閣下の警護と諸侯の鎮圧のため、王宮に向かいます!」

30: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:09:22.76 ID:Q8G1HzKN0
老騎士「待つのじゃ」

若騎士「しかし!」

老騎士「王宮にはわしが向かうとしよう」ヨイショ

若騎士「王宮は危険です! 体力のある私が行きますので」

老騎士「それには及ばん」

若騎士「何故ですか!」

老騎士「これはわしの役目じゃ」

若騎士「あなたはいつも自分が動こうとする。しかし、私だって元帥閣下のお役に立ちたいのです」

老騎士「……だからこそ、わしが行くのじゃ」

若騎士「いえ、今日は私も譲れません!」

老騎士「甘えたことを言うな!」

31: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:11:50.52 ID:Q8G1HzKN0
若騎士「なっ……!」

老騎士「これから先、我が主は、この国の将来を誰に相談すればいいのじゃ? 誰が一緒に道を探してくれるのじゃ?」

老騎士「我が主は強い。わしらなんぞとは比べ物にならぬほどな。じゃが、武官出身ゆえ、王宮内や諸侯の権謀術数にはやや疎いところもある」

老騎士「これから我が主を支えていけるのは、諸侯の家出身で、我が主と同じような歳の若騎士だけじゃ。下らぬいざこざで命を落とすことなどあってはならぬ」

若騎士「しかし……しかし、それではあなたは?」

老騎士「なに、無知蒙昧で変化を受け入れる勇気もない小人どもを一喝してくるだけじゃ。こういうのは死にかけの老人が行った方が箔が付くのじゃ」カッカッカッ

老騎士「重ね重ね申し訳ありませんな、客人殿。我が主はちょっとしたいざこざに巻き込まれてしまったようで、戻るまで今少し時間がかかりそうじゃ。わしも少しこの館を開けねばならぬが、お待ちいただけますかな」

男「わかりました。お気をつけて」

老騎士「それでは、ちょっと王宮に行って参るぞ」

若騎士「どうかご無事で」

32: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:14:01.24 ID:Q8G1HzKN0
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男「なかなか熱い方ですね……」

若騎士「熱いというか、暑い?」

男「確かに」ハハハ

若騎士「でも、元帥閣下はもっと熱いお方ですよ」

男「へえ」

若騎士「この屋敷も、元々は普通の屋敷だったのです」

若騎士「ところが、国王軍の元帥ということで、各地の領主たちから様々な訴えなどがあり、それをすべて聞き捨ててはならぬと、私財を投じて会堂を作ってしまったのです」

男「あの男が……ねぇ」

若騎士「以前は、正義感は強いもののどこかドライな所がありましたが、魔王討伐以降は、人が変わったように正義感を貫徹させるようになりましたね」

33: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:16:28.96 ID:Q8G1HzKN0
男「でも、魔王が亡くなってから5年が経つというのに、王都は混乱の真っただ中のようですね」

若騎士「……これでも、かなり良くなったのです」

男「王都で諸侯たちが紛争を起こす状況でですか?」

若騎士「盗賊は減りました。諸国からの物資は魔王戦線のころと比較して格段に増えました。一般の民は少しづつですが荒廃から立ち直りつつあります」

男「しかし、王国は一体どこに向かおうとしているのですか?」

若騎士「『到達点が見えねえだと?そんなこと気にするな』」

男「えっ!?」

若騎士「『出発点が見えなくなったぞ。俺たちはそれだけ進んできたんじゃねえか』」

若騎士「……元帥閣下の台詞です。到達点など見えなくても、信じる方向に突き進むしかないのです」

34: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 01:17:45.83 ID:Q8G1HzKN0
男「……」

若騎士「すいません。ついつい変なことを語ってしまいました」

男「いえいえ、そんなことはありませんよ」

若騎士「紅茶がすっかりなくなっているではありませんか。すぐに替わりをご用意しましょう」

男「あ、いえ。そろそろお暇しようかと思います」

若騎士「そんな、元帥閣下はしばらくしたら戻ると思いますので」

男「実は、王立魔道研究院長からも招待を頂いているので、先にそちらに伺ってこようと思いまして」

若騎士「そうでしたか」

男「ちょうど雨も上がったようですし」

若騎士「分かりました。またいらしてください」

男「ええ、もちろん」

38: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:29:01.84 ID:Q8G1HzKN0
-------
----

僧侶「はあっ、はあっ」タッタッタッ

魔法使い「戦士を独りにして良かったの?」

勇者「良くはないけど、心残りがあるなら魔王戦の前に整理させてやりたい。俺たちは4人で胸を張って王都に凱旋したいじゃないか」

僧侶「そんなものですかね……?」

勇者「……っと、ここは何の建物だ? 比較的大きい館のようだが」

僧侶「平屋のようですけどね」

勇者「まあいい、開けてみよう」ギイッ

39: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:32:07.85 ID:Q8G1HzKN0
???「ようこそ、魔王立図書館へ」

勇者「今度は何者だ!」

???「我が名は黒騎士……」

僧侶「黒霧……」

勇者「ちょっ、僧侶。それじゃ焼酎だろ」

僧侶「ええ、魔王より格下であることが一発で伝わるネーミングです」

勇者「いやいや、こいつは今『黒木氏』と名乗ったんだ」

黒騎士「黒木氏!? イントネーション違くね!?」

僧侶「そうですよ。やっぱり黒霧ですよねえ」

黒騎士「それもイントネーション違うだろうが! どこの産まれだよ!」

僧侶「王都から西に3日ほど行ったところにある長閑な港町です」エッヘン

黒騎士「本物の田舎者でした。なんかすいません」

40: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:34:35.76 ID:Q8G1HzKN0
勇者「ところでお前は、敵、という事でいいんだよな」

黒騎士「コホン、まあ待たれよ。我が血族はこの館にて裏切られし者を調べ、裏切りしものを断罪することを生業にしている」

僧侶「また裏切りですか?」

勇者「さっきもそんなことを言ってる奴がいたが、俺たちは誰かを裏切るようなことをしていない。邪魔したな」クルッ

黒騎士「待たれよ!」

勇者「待つ必要がないだろ」

黒騎士「そこの魔法使い」

魔法使い「……」

41: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:36:29.40 ID:Q8G1HzKN0
黒騎士「その方、その類稀なる魔術をどこで習得したのだ?」

魔法使い「……そう来るのね」フッ

魔法使い「この魔界で、ダークエルフの一族に教わったわ」

僧侶「えっ!」

勇者「いつの間に……?」

魔法使い「……私の父は魔術師としての腕を買われ、王都の魔道師団に所属していたの」

魔法使い「魔族は、人間でありながら魔術を操り、魔族をけん制する父が憎かったのかしらね。数年前、我が家は魔族の一団に襲われたわ」

魔法使い「父と母は目の前で惨殺され、妹はリザードに攫われた」

魔法使い「自分の無力さを許せなかった私は、闇堕ちしたふりをしてダークエルフの里を訪ね、魔法の教えを乞うたのよ」

42: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:39:01.72 ID:Q8G1HzKN0
黒騎士「その魔法をもとに、我が魔族を屠ったと申すのだな?」

魔法使い「そうなるのかしらね」

黒騎士「それがダークエルフに対する裏切りでなくて何であろう」

魔法使い「私はダークエルフを一人たりとも殺めていないわ」

黒騎士「話を矮小化するでない! 魔族から習得した魔法で魔族を殺める。すなわち裏切りではないか」

魔法使い「……」

黒騎士「その方の手も心も汚れきっておる」

魔法使い「分かってるわ、そんなこと」

黒騎士「何だと?」

魔法使い「範囲魔法って便利よね」

黒騎士「魔法がどうしたのだ?」

魔法使い「魔王討伐隊で一番多く殺めてきたのはこの私よ。……魔族だけでなく、人間もね」フフッ

43: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:41:02.59 ID:Q8G1HzKN0
黒騎士「一応、自覚があるようだな」

魔法使い「罪を背負う覚悟がなければ、魔王討伐隊になんか参加していないわ」

黒騎士「しかし、何と薄っぺらい覚悟なものか」

魔法使い「あなたにどうして覚悟のほどが分かるのかしら?」

黒騎士「その方は『罪』という言葉を隠れ蓑にして、生けるものの命に優劣を付けては殺戮を繰り返してきただけではないか」

魔法使い「……なら、あなたたち魔族は私の父や母や妹を返してくれるのかしら?」

黒騎士「今度は話のすり替えか?」

魔法使い「すり替えていないわ」

黒騎士「今はその方の魔族に対する仕打ちの話だ」

魔法使い「その前提に私たちに対する魔族の仕打ちがあるのよ」

44: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:44:16.30 ID:Q8G1HzKN0
黒騎士「斯様な話はしておらぬ」

魔法使い「そういう話をしているのよ……!」

魔法使い「守るべき大切なものに無理やり優先順位を付け、優先順位の低いものを数多殺めてきたわよ! 大切な妹を助けるために、二度と妹に顔を合わせられないくらいこの手を汚して、自分でも何のためにこんなことしてるのか分からなくなって……、それでも、助けなきゃ、って……! あなたたちの行いががそうさせたんじゃない!!!」

黒騎士「斯様な話は聞いておらぬ」

黒騎士「魔法使い、その方の罪、万死に値する」ザンッ

魔法使い「適当な屁理屈をこねて殺戮したいだけなのね、結局」

魔法使い「……いいわ、かかってきなさい。どちらが万死に値するか教えてあげるわ」

45: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:48:05.91 ID:Q8G1HzKN0
勇者「早まるな魔法使い。魔法使いは何も間違っていない」

僧侶「そうです魔法使いさん。それに魔法使いさんは魔王討伐隊として戦ったのですから、万が一それが罪だというのなら私たち4人が等しく背負う罪なのです!」

魔法使い「ごめんね。勇者、僧侶」

勇者「だったら!」

魔法使い「範囲魔法だからって、罪の意識を感じないなんてことはないのよ」

僧侶「分かってます、魔法使いさん!」

魔法使い「一瞬で消した魔族や人々の名前を私は知らない」

勇者「だからそれは……」

魔法使い「……けど、その悲鳴一つ一つを私は決して忘れない」

魔法使い「そんな悲鳴の数々を胸に私は戦ってきた」

魔法使い「だからこそ、事象の表層だけを捉えて殺戮の理由をでっち上げる奴を私は絶対に許さない」

46: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:50:21.47 ID:Q8G1HzKN0
僧侶「魔法使いさん……」

勇者「その思いはみんな同じだ」

魔法使い「『 心残りがあるなら魔王戦の前に整理させてやりたい』って言ったのはあなたよ。お願い、ここは私に任せて」

勇者「くっ……」

勇者「魔法使い、そいつを倒してこい。後で一緒に魔王に挑もう」

魔法使い「ええ、もちろんよ」

-------
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47: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 22:59:45.77 ID:Q8G1HzKN0
男(今度は惑わされないぞ。ただの民家を探そうとしてはいけないんだ)

男(「魔道研究院」だからな。きっと怪しげな研究所みたいになっているんだろう)

男(怪しげな研究所……怪しげな研究所……)

男(いや、王都の居住区で怪しい場所とか……)

男(怪しいどころか修道院の寄宿舎みたいな場所に出ちゃったよ)

男(しかし、この寄宿舎でかすぎるだろ。どんだけ人の多い修道院なんだ? これだけ人が多いという事は……)

48: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:00:52.82 ID:Q8G1HzKN0
子供A「バケモノは出ていけー!」

子供B「出ていけー!」

子供C「王都は俺たちの都だー!」

子供D「都だー!」

ヒュッ カーン

男(やっぱり、悪どい手段で蓄財した修道会なんだ。子供たちに石を投げつけられてるよ)

???「待ちなさい、あなたたち!」

子供A「ババアが現れたぞー!」

子供B「逃げろー」

49: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:02:47.71 ID:Q8G1HzKN0
???「しかし、まわりこまれてしまったようですよ」ザザッ

子供C「!!!」

子供D「助けてー!」

???「今、助けてと思っているのはあなたたちではありません」

???「寄宿舎の中であなたたちの投石に怯えている者たちです!」

子供A「バケモノのことなんか知るか!」

???「バケモノなんてこの王立魔道研究院にはいません! 王立の施設にいる者をバケモノ呼ばわりするという事は、王様をバケモノ扱いすることと同じですよ!」

子供B「ぐっ……!」

子供C「だって、パパとママが……」

子供D「そうだよ、『バケモノのせいで満足な晩御飯も食べさせてあげられない』って……」

50: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:05:06.36 ID:Q8G1HzKN0
???「この施設には、あなたたちから晩御飯を取り上げるような者は一人もいません」

子供A「嘘だッ!!!」

子供B「いや、誰だよお前」

???「この施設は、あなたたちの晩御飯の食材が安全に運ばれるよう、街道を整備する技を学んだり、山に隧道を掘る技を学んだりするところです」

子供C「だって、パパとママが……」

???「あなたたちのパパやママの手助けをする術を学ぶところなのですよ」

子供B「信じられるかよそんなこと!」

???「聞き分けのない子は院長様の魔法を受けて頂きますよ。いえ、院長様の手を汚すまでもありません。ここは、わたくしが教育的指導を……!」コォォ

子供A・B・C「わあっ、ごめんなさいっ!」

51: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:07:28.72 ID:Q8G1HzKN0
子供D「パパとママの手助け……」

???「どうしたんですか、僕?」

子供D「あ、あの……っ」オズオズ

???「良かったら、一度中を見学してみませんか?」

子供A・B・C「おい何やってんだ子供D、早く帰るぞ!」

子供D「あ、うん……ごめんなさい!」タタタッ

???「ふう、雨が上がるとすぐこれですから、全く……」

???「……っと、失礼しました。あなたは?」

男「お取込み中すいません。実はこの通り、王立魔道研究院長から招待状を頂いているものでして……」ガサゴソ

???「院長様のお客様でしたか。見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。さ、屋敷の方へどうぞ」

52: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:10:59.73 ID:Q8G1HzKN0
-------

???「王立魔道研究院にようこそお越しくださいました」ペコリ

男「あ、いえ」

???「生憎、院長は実地講習で外に出ておりまして、戻りは夕方の予定ですので、あと一刻ほどお待ちいただけますでしょうか?」

男「ああ、わかりました」

???「お越し頂いたところ、申し訳ありません」

男「こちらが急に伺ったのですから……。しかし、大きな研究所なのですね?」

???「ここは研究所というより、研修所や養成所といった性格が強いところですから」

男「なるほど。しかし、さっき子供たちが『バケモノ』とか言ってましたが……?」

???「ここでは、魔法を研究するという性格上、多くの魔族を講師や研修生として抱えています。口の悪い人たちは、彼等を『バケモノ』と呼ぶのです」

男「やはり、魔族たちは『バケモノ』なのですね」

53: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:32:29.86 ID:Q8G1HzKN0
???「残念ながら……」

男「普通の人間は魔法という言葉だけで恐怖を感じるものですからね。まして魔族となると……」

???「私もそれは仕方のないことだと思っていました」

???「しかし、ここはそういう偏見をなくすために活動している施設なのです」

男「研究所がですか?」

???「この研究院は、職のアテもなく王都に来てしまった魔族たちを講師として雇用することからスタートしました。魔法の研究というより、魔族たちの暴走を防ぐのが目的でしたから」

男「しかし、それではこの研究院は本当に恐れられたのでは……」

???「院長はこれを逆手に取ろうとしたのです」

男「逆手?」

???「院長は、魔法を王国内で有効活用する方策を考案し、その策を魔族たちに研究させようと努めたのです」

54: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:35:58.80 ID:Q8G1HzKN0
男「というと……?」

???「火炎魔法の焦点を工夫し、強固な岩盤を溶かすことで山を貫通させる方法ですとか、氷結魔法を活用し、一時的に大河を氷結させて大量の人や物資を移動させる方法ですとか……」

男「そんなことができるのですか?」

???「まだ問題のある技術もありますが、大方は実用段階に入っています」

???「この数年間で王国に張り巡らされた街道網は、それ以前の数百年間に張り巡らされた街道網よりも多いのですよ」

男「王国がそこまで進化しているとは……」

???「院長の慧眼はそれだけではありません。これらの魔法の実習生として、王都の人間を多数招き入れ、魔法を活用した王国の開発に人間を参加させました」

男「人間にも魔法を使わせるのですか?」

???「王国にはもともと魔道師団もありましたし、魔法を使う人間はいましたから」

55: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:38:04.41 ID:Q8G1HzKN0
男「しかし、それはかなり限られた人数だったはずでは?」

???「確かに少数ですが、人間と魔族が力を合わせることのできるものが必要なのです」

男「魔法を使って人間と魔族が協力して王国を開発……」

???「それこそが院長の狙いだったようです。さらに」

男「さらに?」

???「魔法の詠唱の不得手な人間のために、魔法陣の書き方も体系化し、誰でも有効な魔法を発動できるよう研究に余念がありません」

男「なるほど……、しかし、さっきの子供たちは寄宿舎に向かって石を投げていましたが、あそこにいるのは研修生の人間たちなのでは?」

???「あの寄宿棟にいるのは人間たちではなく、迫害を受けたり両親を無くしたりした魔族の子たちです」

男「ここは孤児院も運営しているのですか?」

???「そんな甘いものはありません。彼等も、研修生として魔法を学んでいます」

56: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:42:31.78 ID:Q8G1HzKN0
男「魔族が魔法を学ぶ必要があるんですか?」

???「大ありです。彼等の多くは、生きるために魔法を窃盗や暴力的な目的で使用してしまいます」

???「しかし、そんな魔法は王国にとっても魔族にとっても害悪でしかありません。彼らに、正しい魔法を使うことの重要性を説かなければならないのです」

???「正しい魔法を使うことの重要性を理解できれば、彼らは魔法で王国を支えることに何のためらいもなくなるのです」

男「魔族が人間に魔法の使用方法を教え、その人間をまた魔族が補佐するというのですか」

???「ええ、それを日常生活の中で実現することこそが重要なのです」

男「確かに実現できれば素晴らしいですが、現実にさっきの子供たちは……」

???「魔王が倒れてから、まだ5年です。数百年かけて築かれた先入観は、そんな短期間には崩れません」

???「しかも、王都は未だ混乱の真っただ中ですから……」

???「でも、いつか感情は事実の後を追いかけてきてくれると信じています」

57: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:44:38.15 ID:Q8G1HzKN0
男「ところで、ババア殿」

???「あぁん!?」ガタッ

男「ひっ……! あ、いえ、あの、すいません。呼び方が分からなかったもので、つい、さっきの子供たちが読んでいた名前を……」

???「あのクソガキども……いえ、子供たちから見ればそういう歳かもしれませんが、あなたよりはほんの少し上なだけだと思いますよ」

男「では女教師ですか? 研修生から“氷の魔術師”とか恐れられる……」

???「はぁ!? 私は魔法を教えるほど魔法に長けていませんし、誰からも恐れられていませんけど?」

男(いや、後者は嘘だろ)

???「……あなたにも教育的指導が必要なようですね」

58: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:46:23.63 ID:Q8G1HzKN0
男「魔法に長けているじゃないですかり! 人の思考を読んだりして!」

???「読まれたくなたったら、表情を隠してください!」

???「私は、この研究院で女執事として勤めています」

男「執事、ですか」

女執事「多忙を極める院長の補佐役ですね」

男「なるほど」

女執事「ま、それは表の役割ですが」

男「えっ……?」

女執事「本当の役割は、王国から院長の監視役として派遣されています」

59: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:48:43.73 ID:Q8G1HzKN0
男「しかし、王立の施設を王国が監視とは……」

女執事「施設というより、院長の監視ですね」

男「穏やかな話じゃないですね」

女執事「院長は、魔法使いとして魔王を討伐した三傑の一人です。王国では絶大な人気を誇っています」

女執事「そのような方が王国で魔族を束ねて魔法を研究する---これほど、王宮にとって危険な存在はありません」

男「院長の監視……」

女執事「ええ、院長の監視」

女執事「もちろん、院長の交友関係の監視も」フフッ

男「!!!」

60: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:50:11.91 ID:Q8G1HzKN0
女執事「冗談ですよ」フフフ

男「ちょっ……!」

女執事「今の私には院長を監視する気はありません。院長の姿勢を目の当たりにすれば、そんな気持ちはすぐになくなりますから」

男「監視役が監視対象を信用していいんですか?」

女執事「院長は実地講習で外に出ていると申しましたよね。今日は、魔法で火山活動を抑えるため、実習生と国境の火山に向かっています」

男「そんな危険な……」

女執事「危険でも必要であれば現地に赴く、そして危険であればこそ、誰よりも先頭に立つ。それが院長ですから」

男「なるほど……、院長が素敵な人のようで安心しました」

女執事「それは何よりです」

61: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:51:17.52 ID:Q8G1HzKN0
男「しかしあなたは、さっきから『教育的指導』と称して変な詠唱を始めてばかりです」

男「そんなことでは、人間の魔法に対する恐怖心を煽ってしまいますよ?」

女執事「私も、魔道研究院の端くれとして治癒魔法くらいは使えますから」

男「ですから、使えるからと言って人に向けて使っちゃ……」

男「治癒魔法?」

女執事「ええ、治癒魔法」フフフ

女執事「向こう見ずな上司を持つと、非常に役立つ魔法なんですよ」

62: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:52:24.83 ID:Q8G1HzKN0
男「そろそろ一刻経ちますが……」

女執事「もしかしたら、院長はいつもの場所に寄ってから戻るのかもしれません」

男「いつもの場所?」

女執事「魔王戦線の戦没者墓地です。人間も魔族も眠っているところです」

男「院長は、よくそこに行くのですか?」

女執事「3日に1回は行っているかもしれません」

男「そんなに……」

63: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/13(月) 23:54:20.44 ID:Q8G1HzKN0
女執事「1月に1度の王宮への報告書は忘れがちなのに、『私たちが行いを報告すべき相手は王宮ではない。未来を信じて亡くなった戦没者よ』と書き記して譲りません」ハァ

男「まあ、院長らしいとは言えますね」

女執事「しかし、戦没者墓地に寄っていると、ここに戻るのはあと一刻ほど遅くなってしまいます」

男「それでしたら、一旦元帥の屋敷の戻りましょう」

女執事「元帥閣下のお屋敷、ですか?」

男「ええ、実はここに来る前にお伺いしたら、外出中だったもので」

女執事「そうでしたか、では、ぜひ先にそちらへ……」

男「ええ、一旦失礼させていただきます」

66: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 00:53:22.42 ID:rk//pNLX0
-------
----

僧侶「勇者さん、この魔王城なんかおかしくないですか?」

勇者「魔王城なんだから基本的におかしいだろ」

僧侶「それはそうですけど……、挙げ足を取って裏切りがどうとか、魔王城の住人は何でそんなことばかり言うんでしょうか?」

勇者「うーん、奴らはみんな魔王城の秘密警察だったとか?」

僧侶「そういうのは魔王の忠臣を監視するんじゃないですか? 私たちは裏切りとか関係なく、問答無用で彼らの敵なはずです」

勇者「そうなんだよなぁ」

僧侶「彼らの目的がさっぱりわかりません」

勇者「まあ、答えは魔王を見つけて訊くしかないと思うよ。とにかく今は魔王探しに専念しよう」

僧侶「そうですね」

67: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 00:55:23.14 ID:rk//pNLX0
勇者「この館は今までで一番大きい」

僧侶「天井も高く、中も広そうですね」

勇者「魔王がいるとしたら、ここだろうか」

僧侶「開けてみましょう」

勇者「そうだな」ギイッ

??「魔王様の執務棟へようこそ、勇者殿」

勇者「魔王だと!?」

僧侶「ついに来ましたね!」

勇者「……っと、その前にお前は誰だ!」

僧侶「勇者さん気を付けてください。この人は勇者さんを勇者だと認識しています」

68: ◆FqOZ7jTRCo 2017/02/20(月) 00:58:13.79 ID:rk//pNLX0
勇者「ああ」

??「その大きな両手剣を仕舞ってください、勇者殿。私にはあなたと戦闘する意思はありません」

勇者「なんだと?」

??「私の名は側近。ここ、魔王様の執務室で、魔王様の執政の補佐と身の回りの世話を仰せつかっております」

勇者「そうか。では俺を魔王のもとに案内してほしい」

勇者「俺の名を知っているという事は、来訪目的も承知しているのだろう」

側近「かしこまりました」

勇者「えっ、いいのか?」

僧侶「側近さん、魔王はどこにいるんですか?」

側近「ご案内できるのは勇者殿のみです」

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